▼今年から「みどりの日」となった5月4日。青葉繁れるけやき並木で、山車巡行が行われた。勢揃いした21台の山車の中で、ひときわ目を引くのが「小柳町南町会・柳原神社」の例祭で使う山車。単層唐破風構造の山車の「懸魚・げぎょ」に、阿と吽(つがい)の龍が飾られている。竜は9種類の動物を合成したものと言われ、十二支で唯一空想上の存在である。瑞祥、吉兆の象徴として、火難、水難、商売繁盛にご利益があるとされている。
▼作者は新進の彫刻家、馬塲稔郎(ばば・としろう・26)さん。「府中囃子保存会・小柳囃子連」の芹澤会長(60)から依頼を受け、8か月かけて製作したもの。寸法は、600×1400×400(たて・よこ・奥行き・単位ミリ)の大きさで、材質はヒバを使用している。同会では昨年まで建具店が製作したものを使っていたが、「心機一転、グレードアップしたい」(芹澤会長)思惑があった。そこで、白羽の矢が立ったのが馬塲さん。間を取り持つ「人間接着剤」の役目を果たしたのは、「織田真」の馬場真樹店長。取り付け作業は、4月29日小柳町2丁目で行われた。
▼受注した龍を作るおおまかな手順は、粘土による塑像、図面書きを経て木取りから本格的な製作工程に進む。物ごとには粗削りから、中間調整、仕上げと三つの段階がある。用途に応じたノミや彫刻刀などの工具を使い、「締め切り」の期日と格闘した。龍をこしらえる際心血を注いだのが、①実寸台の図面起こしと、②ひげの製作方法。屈託のない晴れ晴れとした表情で、「さすがに、根を詰めましたよ」と胸の内を明かす。
▼追い込みに入って、うろこ作り、ひとみ、ひげを付け文字通り画竜点睛の仕上げとなった。作品は手足の爪、玉を握る手からも、力強さが伝わってくる出来栄えである。ディテールにもこだわり価値を追求した。「虹」という文字は虫偏からなる。この場合の「虫」は、昆虫ではなくヘビ(蛇)のこと。ヘビとは「竜」のことを言う。昔の人は空の高みにかかる美しい虹を、竜の姿に見立てたのかもしれない。
▼府中市で生まれ育った。小さい頃から物を作ることが好きだった。「小学生の頃は、工作の授業とかね」大学では美術を専攻、プロの彫刻家にも指導を受けた。卒業時は一時進路に迷ったものの、自分の信念を貫く。両親の理解もあった。知遇を得て作品に売値が付いたのは2003年のこと。この時が難関「登竜門」を登る端緒となった。小柳町南町会からの注文には、「こんな立派な仕事をいただけるとは思わなかった」と喜びをかみしめる。
▼楽しさは構想を練る時間や、「木」の温もりや香り、彫っているときのリズム音。これら一連の作業にも満足感を味わう。「製作するときは、楽しくやりたい」こう言って笑顔を見せる。仕事に対する心構えは、課題と一生懸命に向き合い、打ち込んでいる姿を見せること。自分自身は、まだまだ「荒削り」の存在と控えめに話す。今後さらに彫刻の分野で手技を磨き、海外で個展を開くことを目指している。 (K)
※くらやみ祭以降の日程―小柳町のお祭りで披露される。(10月)
※文中の「竜・龍」の表記…成句は「竜」。細工物、彫刻物の場合、「龍」を用いています。
写真
①正面唐破風鬼板と懸魚「龍」
②芹澤会長(左)と馬塲稔郎さん(右)
③山車の巡行(PM6時30分・旧甲州街道で撮影)
掲載日付:2007/05/05